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お知らせ
2009年12月29日から2010年1月3日まで、『エクスプロラトリー ビヘイビア』を毎日アップします。
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長者ケ崎―人美が降りたバス停の一つ先―でバスを降りた渡辺と進藤は、タクシーで本部へと戻って来た。二人は沢木らに初めて見た人美の感想を語り終えると、本社へと引きあげた。沢木は二人の感想を興味深く聞き入っていたが、中でも特に印象に残ったのは、渡辺のこんな言葉だった。
〈今日一日で私が見たものは、両親と楽しげに会話をする姿、軽快に歩く姿、かわいらしい仕草などです。それから思うに、彼女は一般的な女子高生とは違う―理由を聞かれても困るのですが、とにかく違う、ということを強く感じました。そして、もしも彼女にサイ・パワーなるものがあるのなら、彼女はそれに気づいていないような気がします。なぜなら、あの表情や雰囲気、明るさというのは、本物だという気がするからです。心に陰のある人間に、あんな雰囲気は出せませんよ、きっと……〉
沢木は次ぎなる作業をしながら考えていた。
違う、そう渡辺さんに思わせたものは何だろう? 確かに写真からでも彼女の独特の雰囲気は伝わってくる。少女の顔と女の顔、大人と子供の境目、そんな言葉がぴったりの顔立ちをしてる。そういうところなのか? それとも、内面からにじみ出てきているのだろうか? 特異な力を持つという内面から…… しかし、彼は人美さんが自分の力に気づいていないようだとも言った。あー、彼女に会ってみないなぁー
リビングルームに置かれた折り畳み式の机の一つには、六台のCRTと、それに接続されたパソコンなどが載っていた。沢木はテプラでラベルを作り、そのCRTへ左から順に、PPS検知波、フーリエ分解後、抽出波、制御用、汎用1、汎用2、とラベルを貼り付けていった。このうち人美の脳波を示すものは、〈抽出波〉のラベルが貼られたCRTであるが、そこに映し出される波形は、波の形や大きさをひっきりなしに変えているだけであり、それはASMOSが学習を行っていることを示していた。
ラベルを貼り終わり満足げな沢木のもとに、秋山が近寄って来て言った。
「相変わらず几帳面ですこと」
言いながら彼女は沢木の横の回転椅子に座った。
「こうしないと落ち着かなくてね。やはり物事の基本は整理整頓だよ」
秋山は「ふふっ」と笑った後に、〈抽出波〉のCRTを見ながら言った。
「振幅がだいぶ大きいですね」
沢木はタバコに火をつけながら返事をした。
「んん、そうだね」
「でも、脳波の観測だけでは…… どうなのかしら?」
「まあ、僕らも一つ一つ経験を積んでいくしかないね」
「人美さんって、どんな娘なんでしょう?」
「興味ある?」
「沢木さんだってそうでしょう?」
「そうね、会ってみたいよ、彼女に直接。どんな話しかたをするのか? 何を考えているのか? 将来の夢は何なのか? そんなことをサイ・パワーの有無に関わらず、ぜひ知りたいね」
「随分お熱なんですね」
「まあね、若い人って、いいだろう」
「沢木さんには若すぎるわ」
「そういう意味じゃなくてさぁ。つまり、若いということは、僕らよりも多くの可能性を秘めている、ってことじゃない」
「ああ、そういう意味ですか」
「うん」
「私にはどんな可能性があるんだろう……」
秋山は思った。
沢木さんと結婚する、何て可能性、あるのかなぁ
そしてつぶやいた。
「ないかなぁ」
「あるさぁ」
沢木は元気よく答えた。
「本当!?」
「ああ。プロメテウスを契機に僕たち総合技術管理部も本格的に宇宙開発事業に進出する。そうなった時には君に活躍してもらわないとね。夢だったんでしょ? 宇宙が」
何だぁ
秋山はがっかりし、それを見て取った沢木は思った。
嬉しく、ないのかなぁ
秋山は気を取り直すかのように言った。
「ええ、楽しみだわ。でも、今の仕事に不満はありませんよ。何せ、世界でも屈指の技術者のアシスタントを務めてるんですから」
「誉め過ぎだよ」
沢木はタバコの灰を落とした。
「ところで沢木さん。プロメテウスのほうが最近お留守になってますけど、いいんですか?」
「そうね、あっちにも顔を出さないと。でも、スタッフはみんな有能だから、ちょっとぐらい僕がサボってたって大丈夫でしょう」
「のんきですね」
「忙し過ぎるのはよくないよ。創造力にかけてしまうからね」
「で、今は人美さんに夢中なわけですね」
「そういうこと」
それからの一週間は特に変わったこともなく過ぎていった。そのことは沢木の手帳に次ぎのようにメモされていた。
八月八日(火曜日)晴れ
○チャーリー担当 片山、岡林
ASMOSに変化なし。
人美は夕方海に散歩に出る。
会長から電話あり(人美部屋の整理、見山氏から人美に国際電話)。
八月九日(水曜日)晴れ
○C 秋山、松下
ASMOSに変化なし。
人美は一日中部屋の整理。ASMOSにとっては都合がいいが退屈だ。
家政婦の橋爪が足を捻挫したとのこと。彼女のおてんばぶりを思えば、人美のせいではないだろう。
秋山が夕食を作ってくれた。
八月十日(木曜日)晴れ 暑い
○C 桑原、岡林
抽出波に若干の変化あり、脳波成分を理解し始めたらしい。
人美の友達が訪れる。会長により泉彩香と判明(学籍簿より、 住所 神奈川県横須賀市林……、ウッドストック写真撮影)。
岡林がTVゲームを持ち込み、そのことで岡林と桑原、喧嘩になる。
八月十一日(金曜日)晴れ 今日も暑い
○C 片山、秋山
人美は午前中、自転車で近所の散策。その間、抽出波を映すCRTには
何も出ず。予定よりも早く学習が進んでいるようだ。
秋山の作った夕食は今日もおいしかった。
秋山の帰宅後、片山と二人で酒を飲んだ。今の恋人と結婚する決心がついたらしい。
八月十二日(土曜日)晴れ あつい、あつい、あつい
○C 松下、桑原
抽出波の周波数が〇.五~四〇ヘルツの間に収束してきた。松下さんが
検討するも、特に異常なし。
人美は午後から自転車。かなりの時間と距離を走り回り、ウッドストックを困らせた。本屋で本を買ったらしいが、何の本かは不明、残念。
それにしても自転車の機動力には車では対応できない。明日からウッドストックにはスクーターも使ってもらおう。
松下がゲームがうまいのは意外だった。聞けば子供たちの相手をさせられているとのこと。ご苦労なことだ。
午後から久しぶりに本社へ。幕張でのシンポジウム用の資料作成。
夕方には本部へ。突然寿司が食べたくなり出前を三人分取る。
八月十三日(日曜日)暑さで気が狂いそうだ
○C 久しぶりに全員そろう
松下さんによる脳波講習会が行われた。
松下さんの分析によると、若干ノイズが混入しているようだ。
念のため岡林と二人で位相補正プログラムをチェック。
人美は外出しなかった。
岡林に寿司を食べたことが発覚。おごらされることになってしまった。
続く…
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