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2009年12月31日木曜日

小説『エクスプロラトリー ビヘイビア』(18)

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 お知らせ
 2009年12月29日から2010年1月3日まで、『エクスプロラトリー ビヘイビア』を毎日アップします。
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 午後六時十三分。森田、篠原の両名と、ウッドストックの任を交代した渡辺と進藤が本部に帰って来た。渡辺は沢木の前に来るなり、厳しい表情と口調で言った。
「聞きたいことがあるんだが」
 ただならぬ雰囲気を悟った沢木は、「上に行きましょう」と言って歩き出した。渡辺はそれに続いた。二階の和室にたどり着くと、渡辺が重々しい口調で切り出した。
「プロメテウス計画の全貌を知りたい」
 沢木は窓の脇の壁に寄りかかりながら、腕組みをして言った。
「理由を言ってください。正当な理由があればお話ししましょう」
 渡辺はいらついているようだった。
「今日、木下賢治というフリーのジャーナリストが何者かによって殺された。アパートの自室で、拳銃の弾を三発食らって―殺された男は我々情報管理室がマークしていた男だ。その理由は―」
「プロメテウス計画の情報漏れ?」
「そのとおり。我々は相模の社員数人がある人物と密会しているとの情報を入手し、調査を開始した。その相模社員はいずれもプロメテウス計画の参加者。そして、密会の相手は木下賢治だ。ここまで突き止めた。しかし確証を得るまでには至らず、内偵作業を進めていたんだ。とこがだ―奴が殺された。沢木さん、一体プロメテウス計画には何が隠されているんだ。それは人殺しまで誘うような計画なのか? あんたなら知っているはずだ!知らないなんて言わせませんよ、沢木さん」
 沢木は渡辺に対して最初に思ったことを思い出した。この男をメンバーに加えてよかったのだろうか―彼は渡辺の真意が知りたかった。
「とぼけるつもりはありませんよ。ただ、それを知ってどうするんです。その木下という男に情報を漏らした相模社員は分かっているんでしょう。ならば、その社員たちを取り調べればいい。それだけの権限が情報管理室にはあるんだから。それに、その男の殺された理由がプロメテウス計画と関連しているかどうかも、現段階では定かじゃない。違いますか?」
「おっしゃるとおりだよ」
 渡辺は皮肉っぽく言った。
「しかしねぇ、沢木さん。あなたはテロの驚異というものを分かっていない。実は、私が信頼できる筋から聞いた情報によると、テロ対策法により解体された過激派組織が、水面下で再び結集し活動を再開しようとしている。彼らは手段を選ばない。彼らなりの大義名分のもと、テロ行為を再び繰り広げるつもりだろう。そうなった時、この相模重工も標的にされる可能性は十分にある。私が危惧するのは、今日の木下殺しが、その第一歩かも知れないということですよ! 私は情報管理室の室長として、相模の企業秘密保全に努めるとともに、そうした驚異から相模を守ることも自分の仕事だと考えている。そのためには、相手が何を考え、何を狙っているのか、それを十分に理解する必要がある。そうでなければ相模を驚異から守ることはできない!」
 沢木は渡辺の表情と言葉に、その内に秘めるものを感じ取った。
「なるほど、よく分かりました」
「それじゃ、聞かせてもらいましょうか」
 沢木はタバコに火をつけた。そして、立ち上る煙を見つめながら言った。
「ええ、それもいいんですがね。その前にちょっと確かめたいことがあるんですよ」
 渡辺はいぶかりながら言った。
「何を?」
「一つはSOP第二セクションに動きがあるかどうか、ということ」
 警察の特殊部隊であるSOPには、第一セクションと第二セクションがある。第一セクションは、かつて渡辺が所属していた武装警察隊だが、第二セクションのほうは、公安関係の捜索活動を主な任務としている。
「いや、ないと思う。あればとっくに情報が入ってくるはずだ。SOPが絡むようなことなのか?」
 沢木は渡辺の質問を無視した。
「もう一つは、木下賢治がなぜ殺されたのか? そして、どこまで知っていたのか? ですよ」
「何だって!」
 沢木は淡々とした口調で言った。
「あなたに情報管理室長としての責務があるように、私にも相模社員として、プロメテウス計画の参加者として、守秘義務というものがある。私は決して組織に執着した人間ではありませんが、それを破るのには、それ相応の条件というものが必要なんですよ」
「その条件が殺しの理由か?」
「そうです。殺害理由がほかにあるならば、あるいは情報漏れの程度が軽症ならば、私は何も守秘義務を犯さなくてもいいはずだ。そうでしょう?」
「まあ、確かにそうともいえるが……」
 沢木は渡辺の真ん前に移動しその顔を見つめると、弾んだ口調で言った。
「行きましょう」
「どこへ?」
「木下は自宅で殺されたんでしょう。そこへ行くんですよ」
「何だって!」
 渡辺は意外な言葉に驚いた。そして、思った。
 何て奴だ! どういう頭の構造をしてるんだ! 好奇心もいい加減にしないと怪我するぞ!
 沢木は襖を開けるとすたすたと階段を下りて行った。
「お、おい、待て!」
 階段の途中で立ち止まった沢木が振り返って言った。
「あっ、そうそう。自宅の場所、知ってますよね?」
「あ、ああ」
 沢木はにっこり笑って言った。
「では、参りましょうか」
 もはや何を言ってもこの男は行くつもりだろうと渡辺は思った。が、一応言ってみた。「行ったって何にもありゃしないさ! 警察だってバカじゃない。重要なものは見つけて持って行ってるさ」
 沢木は階段の残り三段を飛び下りると、再び渡辺を振り返り答えた。
「そうですかね? まあ、とにかく行ってみましょうよ」
 沢木の声はパソコンに向かって作業をしていた秋山まで届いた。
「行くって? どこに行くんですか?」
 秋山が沢木に歩み寄りながら尋ねた。
「ちょっと、いや、しばらく留守にするがよろしくお願いします」
 沢木の勢いは止まらない。吸いかけのタバコを秋山に渡すと、機材の脇に置いてあった自分の鞄を引っ掴み、玄関で靴を履き始めた。あきらめた渡辺が言った。
「秋山さん、あなたの上司には困ったもんだよ―進藤! 俺は出かけるがお前は帰っていいぞ! あばよ!」
 事情が分からずポカンとする秋山と進藤を残して、二人は外へ出て行った。


 沢木と渡辺の乗った黒いスカイライン4ドアセダンは、横浜横須賀道路を北上していた。ハンドルを握る渡辺は、法定速度をはるかに越えるスピードで、東京足立区にある木下の自宅を目指していた。
 二人の乗る黒のスカイラインは情報管理室用の車両で、無線機、電話機、端末機などを搭載しているほか、エンジンやサスペンションなどにも改造が施されていた。渡辺はこのスカイラインを気に入っていて、車を使う時にはいつもこの車を指名していた。
 沢木が言った。
「警察関係者なんていないですよね?」
 渡辺はちらっと時計を見た後に答えた。
「多分な。しかし、警備の警官ぐらいは立っているかも知れん。まあ、その時は沢木さん、あなたがぶちのめすんだな」
 沢木は肩をすくめておどけて見せたが、渡辺は前方を見たままだった。
「ところで渡辺さん。SOPにいたっていう噂は本当なんですか?」
「ああ、本当だ」
「どの小隊に?」
「第三小隊だ。そこで小隊長をやってた」
「第三小隊っ! すると、東京サミットの時のアメリカ大使館人質救出作戦はあなたが?」
「ああ、俺が指揮した」
 沢木は驚かずにはいられなかった。まさか、渡辺がそこまでの人物とは……
「驚いたなぁ、凄い実績じゃないですか。でも、なぜ辞めたんです?」
「聞きたいか?」
 それは三年前、渡辺がSOPを辞める二週間前の出来事だった。渡辺率いるSOP第一セクション第三小隊の精鋭たちは、テロリストにより拉致された某石油会社社長の娘を救出すべく、テロリストのアジトを急襲した。人質奪還作戦は極めて正確に、かつ敏速に実行され、テロリストは次々とSOPの放った銃弾の前に倒れていった。
 最後の一人を撃った渡辺は、六歳の少女を抱き抱え、「もう大丈夫だよ」と優しく声をかけ、少女はそれに涙で答えた。が、その時それは起こった。渡辺により倒されたはずのテロリストが、銃口を彼と少女に向けた。渡辺はそれに素早く反応し、短機関銃を構えテロリストに六発撃ち込んだ。しかし、それでも遅かった。テロリストは死んだが、少女もまた死んだ。腕の中でぐったりとした少女を床に寝かせると、彼のボディ・アーマーには少女の鮮血がべっとりと染みついていた。それは渡辺にとっても、“栄光の第三小隊”と賛美されたSOP第一セクション第三小隊にとっても、初めて経験する耐え難い敗北の瞬間だった。
「俺はミスをした。最初の銃撃でテロリストを撃ち損じたんだ。あの時ミスさえしなければ、少女は死なずに済んだ。俺のミス、間違いなく俺のミスだ」
 渡辺は今でも自分を責めているようだった。沢木にもその気持ちはよく理解できた。守るべきものを守れなかった悔しさは、状況こそ違えど同じだった。
「俺はねぇ、沢木さん。もう二度とミスはしたくない。人の生死に関わるようなミスはしたくないんだよ。そして、今回の計画に関わるうちに、死んだ少女と人美とが重なって、何が何でも人美を守ってやりたい、と思うようになったんだよ」
 沢木は何も言い返しはしなかった。ただ、人それぞれにいろいろな過去があるものだ、と思い、自分の過去を振り返っていた。
 ピピピピピッ、ピピピピピッと電話が鳴った。
「ん、ん、そうか。分かった」
 渡辺は電話を切った後に言った。
「木下の家からは犯人を特定できるようなものは何も見つからなかったそうだ」
「そうですか」
「無駄骨になりそうだな」

続く…

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