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2010年1月2日土曜日

小説『エクスプロラトリー ビヘイビア』(19)

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 お知らせ
 2009年12月29日から2010年1月3日まで、『エクスプロラトリー ビヘイビア』を毎日アップします。
 元日は、年賀メッセージを1日掲載することにしたため、アップしませんでした。
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 午後九時を少し過ぎたころ、黒いスカイラインは木下のアパートの近くに止まった。木下の部屋の前には、幸いにして人の姿はなかった。
 木下の部屋の前まで来ると、渡辺はドアの前にしゃがみ込み、車から持って来た鞄の中から細長い金属の棒を取り出し、それを玄関ドアの鍵穴へと差し込んだ。
「そんなものを持ち歩いている何て、穏やかじゃないですね」
 沢木が小声でそう言うと、渡辺はむっとした顔をして答えた。
「ここへ来ようと言ったのは、どこのどいつだっけ」
 渡辺はカチャカチャという音をしばらく鳴らした後、やや大きめのガチャリという音をさせた。ドアが開き、二人は中へと入って行った。
 玄関を入ってすぐの居間につながる廊下には、生々しい赤い染みが懐中電灯の光に浮かび上がっていた。渡辺は居間のほうへと進み、沢木は赤い染みをよけながら彼に続いた。「さあ、お望みの場所ですよ、沢木さん」
 沢木は居間を見回した。正面の窓の側には大きな机があり、その上にはデスクトップ型のワープロが置いてあった。机と反対側の壁際には本棚があり、軍事関係、技術関係の本がずらりと並んでいた。
「とにかく調べてみましょう。私はこの居間を調べますから」
「よし、俺はほかの部屋を見よう」
 渡辺は寝室へと入って行った。
 沢木はワープロが置かれた机に歩み寄り、その上を眺めた。普通ならば置かれているはずの資料やフロッピーディスク、打ち出された原稿など、そのようなものは机の上にはなかった。三つある引き出しの中も全部調べてみたが、やはり何もない。
 空振りだったかなぁ
 沢木はそう思いつつ、本棚のほうへと移動した。
 それにしても熱転写プリンターなんかでよく仕事が間に合うなぁ
 ジャーナリストという仕事柄を想像した沢木は、印字速度の遅い熱転写プリンターは非合理的だと思った。
 待てよ、熱転写プリンターだと
 沢木はすっと回れ右をして、再びワープロに近づいた。そして、ワープロと一体型になったプリンターの内部を懐中電灯で照らし、そこをのぞき込んだ。
「ようし」
 沢木はそうつぶやくと、プリンターの用紙挿入口の蓋を開け、さらに透明のカバーを外し、インクリボンカセットを取り出した。
 熱転写プリンターは、オーディオ・カセットテープのような構造をした、インクリボンカセットにより印字を行う。この際、印字した文字は白抜け文字となってインクリボンに残り、カセット内に巻き取られている。つまり、そのインクリボンカセットで印刷されたすべての文章が、カセット内に残っているのだ。
 沢木は懐中電灯をワープロの上に置き、その明かりのもとでインクリボンを引き出し始めた。しばらくリボンを引き出すと、沢木はほくそ笑んだ。
「渡辺さん! 渡辺さん!」
 小さな叫び声に気づいた渡辺が、小走りに沢木の脇にやって来た。
「どうした?」
 沢木はインクリボンを指差した。渡辺がのぞき込むと、“軍事衛星プロメテウス”の文字が見えた。
「やれやれ、立派なもんだよ沢木さん。あんたはきっといい警官になれる」
「話しを整理しましょう」
 沢木が言った。
「木下はプロメテウスに関する極秘事項を知っていた。そして、このワープロで記事を書いていた。なのに印刷物もフロッピーディスクもない。ということは、誰かが持ち去ったことになる。警察じゃないとしたら、それは木下を殺った奴だ」
「そうだな。そして、殺しの理由がほかにあるならば、プロメテウスに関連するものを持ち去る必要はない。つまり、犯人はプロメテウスについて知りたかった。そして、それを他の人間に知られたくなかった」
 沢木は大きくうなずいた。
「渡辺さん、条件はそろいましたよ。お話ししましょう、プロメテウスについて」
「ああ、だがその前に……」
 渡辺は険しい表情をして言った。
「今度は渡辺さんですか、何です?」
「腹が減ったよ」
 沢木は笑って答えた。
「私もです」

続く…

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