【案内】小説『エクストリームセンス』について

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2012年10月13日土曜日

小説『エクストリームセンス』 No.17

小説『エクストリーム センス』は笹沼透(Satohru)の著作物であり、著作権法によって保護されています。無断で本小説の全部または一部を転載等利用した場合には、民事罰や刑事罰に問われる可能性があります。

 

 そのころ、岡林敦のスマートフォンにはASMOSからの自動送信メールが着信した。隣に杉本美花が眠るベットの中で、寝ぼけながらも岡林はメールを読んだ。
 「ログ容量不足。何だよ……」
 スマフォを置き再び寝ようとする岡林――「何だって!」飛び起きると再びスマフォを手に取った。
 「容量不足なんて、一体ASMOSは何をやってんだ!」
 「どうしたの? 岡ちゃん」
 杉本は眠い目を擦りながら岡林に尋ねた。
 「ASMOSの動作ログが容量オーバーした警告メッセージが送られてきたんだ」
 「どうして? オペレーターの運用ミス?」
 「いや、そんなはずない。ASMOSは何かとてつもない処理を実行したんだ」
 岡林はワークステーションを起動し、ASMOSコアに接続した。状態を確認すると、既に夜勤のオペレーターがログを待避しアラートは消えている。しかし、岡林はASMOSコアのCPUがこれまでにないほど高負荷状態であることを確認する。
 「一体何が起こってるんだ?」
 極めて短時間の間に、人美のサイパワーは飛躍を遂げた。飛行に成功し、エクストリームセンスで意識下にサイバーワールドを展開し、EYE'sのハイパフォーマンス・モードでエクストリームセンスを発動し、拡張現実を実現した。更に強力なサイコキネシスはミサイルの軌道を変え、ズウォメイのコンシャスネス・ネットワークとのリンクをも体験した。その体験は、人美の脳内活動全般を捉えていたASMOSにもこれまでにないほどの膨大な学習を行わせることとなった。その結果、人美の意識と相関する神経活動――NCC(Neural Correlates of Consciousness)から、人美の最も強い思考パターン――興味を持つということを学んだ。これによりASMOSはあたかも意識を持っているかのような振る舞いを始めた。自ら興味を持ったものへの探求を開始したのだ。その探求は、人美が気にかけていたことを踏襲している。人美はエクストリームセンスの経験を重ねる中で、ネット上にはちりばめられた何かが存在すると感じていた。そして、今ASMOSはパブリック・ネットワーク上に点在する一見意味を持たない情報の相関関係を分析し、ついにネットワーク上にちりばめられたあるメッセージを浮かび上がらせた。

 あなたは自分を平凡だと思っていないだろうか? でも実際は、自分も豊かな才能を駆使して成功し、富を築き、自由に生きたいと思っているのではないか? もしそう思っているのなら、正しい社会の構成員となることが重要だ。会社や学校に不満があるだろう? あるいは社会に、親に…… 一体何が不満なのか考えたことはあるかい? 間違った社会は、あなたの価値を正しく認めない。だからあなたは不満を感じ、束縛観を覚え、もっと認められた社会で自由に生きたいと思うのだよ。えっ! そんな社会はないって? 諦めてはいけないよ。正しい社会は現存し、その中で自由に生きている人たちはたくさんいるんだ。あなたもその構成員たるオルガナイザーになれるんだよ。覚えておいてほしい。その社会こそがオルグが目指すものなんだ。
 オルグの社会に入るためには、表現者にならなくてはいけない。でも、それは難しいことではないんだ。いつもあなたが思っていることを実践すればいいんだよ。邪魔なやつは消してしまえばいいよ。つまらない会社は辞めてしまえばいい。えっ! 生活ができなくなるって? 心配はいらないよ。オルグに入れば、自由が手に入る。まずは表現者になるんだ。オルグはちゃんとあなたを見ているよ。そして、表現をしたらその思いをよく見えるところに記録してくれ。記録の方法はあなたに任せる。もう一度いうが、よく見えるところに書くんだよ。そのメッセージは別の表現者に必ず伝わる。そう、SNSは大昔からとっくにあるんだよ。何げなくあなたが見ていた落書きのほとんどには、実は意味があるんだよ。あなたがいい表現をすれば、大きな反響が起きる。そして、オルグでの地位も高くなり、あなたは幸せになれるのだよ。さあ、迷うことなんかないだろう。今から君も表現者だ。

 「何これ?」
 杉本はディスプレイに浮かび上がった意味不明の文章に首をひねった。
 「これ、ASMOSが作った文章なの?」
 岡林はASMOSの動作状況を確認しながら答えた。
 「まだ分からない。でも、とにかくとんでもないことが起こっているのは間違いないよ」
 そして、杉本を振り返り言った。
 「ごめん、これから本社に行ってくる。悪いけどここで待っててくれる?」
 そう言うと岡林は慌てて身支度を調え、杉本にキスをすると足早に部屋を出て行った。ワークステーションの電源も切らず、ログオフもしないで。杉本は一人残された岡林の部屋で、暗闇に光るワークステーションのディスプレイを見つめていた。
 「何てラッキーなの……」
 杉本はワークステーションの前に座った。

 国営データセンターミサイル攻撃テロ、それは未遂に終わった。現場にはSOP戦術チームに加えてSOP支援小隊や群馬県警、館林警察署の警官たち、それにやじうまたちが集結し、現場の検証が行われていた。その指揮を執る里中涼をICC(SOP統合司令センター)の真田が無線で呼んだ。
 「こちら里中、どうした?」
 「HMG-2が見つかりました!」
 「何だって!?」
 一瞬、里中は何というあっさりとした展開だろうと安堵(あんど)したが、続く真田の説明を聞いて新たな事件の始まりを認識した。里中は西岡武信とともにナイトハウンド1号機で3機目のHMG-2が発見された現場へと飛び立った。
 里中と入れ替わるように、渡辺昭博と進藤章を乗せた相模重工のヘリが現場に到着した。沢木聡と見山人美を迎えに来たのだ。そのヘリへと向かう人美の姿を見つけた星恵里は、駆け寄って人美に声をかけた。
 「人美!」
 「星さん」
 星は人美の肩をポンと叩いて肩言った。
 「あなたやるわね。助かったわ、ありがとう」
 「星さんのアドバイスのおかげです」
 「そんなことないわ、あなたの実力よ。自信持ちなさい」
 人美は照れながら小さくうなずいた。
 「それから、もう1機のミサイルも見つかったから、帰ったら安心して休んでね」
 「本当ですか、よかった!」
 そして星は人美に耳打ちした。
 「ねえ、私は口が堅いの、今度あなたの秘密を教えてくれない」
 人美は笑いながら小さくうなずいた。
 「人美、本当にありがとう。そのうちお友達になりましょうね」
 星はウィンクすると人美の返事も聞かずに走り去っていった。
 強いなぁ…… あの人……
 そう思いながら人美は心の中で「はい」と答えた。
 先にヘリに乗っていた沢木に、本社へタクシーで移動中の岡林敦から電話がかかってきた。
 「大変なんです。今から本社で会えませんか?」
 「どうしたんだ?」
 「ASMOSがヘンテコなメッセージを出してるんです」
 「メッセージ?」

 「そんなにひどいのか?」
 西岡武信の問いに神奈川県警の捜査員が答えた。
 「しばらく飯が食えそうにないですよ」
 里中涼は、「まあ、とにかく見てみよう」と言って雑居ビルの借り主のいない事務所へと入っていった。
 里中と西岡は、テロ現場を飛び立った後、横浜港にある横浜海上保安部にナイトハウンドを着陸させ、神奈川県警が向かいによこしたパトカーに乗って2時10分に現場に到着した。そこは横浜駅西口近くの雑居ビルの5階で、ここ数か月空(あ)いたままの貸事務所だった。里中が事務所の中に入ると、そこは蒸し暑く血のにおいが充満していた。里中はハンカチで鼻を覆いながら事務所の奥へと進み、その光景を見た途端思わず目を背けた。西岡は「何だこりゃ。こんなの初めてだぜ」とハンカチで口を押さえた。白いソファの上に人が座らされている。しかし、一目でおかしな造形だと気づく。頭部は切断され逆さまになって胴体の上に載せられている。切断された腕は脚の位置に、逆に脚は腕の位置に糸で縫い付けられていた。大量の血が流れ出て、白いソファと強烈なコントラストを生み出している。そしてその横に、テロ未遂現場と同じ特注の発射台に載せられたHMG-2が置かれていた。発射可能状態になっていると思われるHMG-2の機体には、子供のような字体でメッセージが書かれていた。
 相模重工へのプレゼント。僕らはいつでもやれるよ(^^)v

 ズウォメイ・エマーソンは、サイバーワールドで人美と別れた後、直ぐに自分の部屋で目を覚ました。しかし、今までのようなダイブから浮上した感覚がない。ズウォメイはカーテンを開け庭に目をやり、父ニールが庭でゴルフ・スイングの練習をしている姿を見て、間違いなくダイブから帰還したことを知った。
 私も変わるのかも知れない……
 ズウォメイは考えた。
 人美の力で、私に変化が訪れようとしているのかも知れない。人のバランスが崩れるとは、そもそも災いとは限らないのかも…… もっと知らなくては…… 何が起こるのかを確かめたい。
 そしてつぶやいた。
 「人美、あなたに会いたいわ」
 ズウォメイは庭に出てエマーソンに話しかけた。
 「お父様、私日本へ行くわ。人美と会わなくてはいけないの。だぶん、そういう運命なんだわ」

 沢木聡は相模重工川崎工場のヘリポートについた後、渡辺昭博と進藤章に見山人美を送らせ、自分はタクシーで相模重工本社へと向かった。ASMOS運用管理センターのオペレーションルームに入ると、岡林敦が必死になってASMOSの吐き出した動作ログを解析していた。沢木は早速ASMOSが出力したメッセージを読んだ。そして、動作ログの一部を確認すると岡林に静かな口調で感想を言った。
 「岡林、俺たちは神の領域に足を踏み入れたのかもしれない……」

 

(第1部 完、第2部へ続く)

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