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2010年4月3日土曜日

小説『エクスプロラトリー ビヘイビア』(45)

 午前一時四十分。里中は捜査第七班の部下たち五名を率い、横浜市の根岸港にある田宮石油根岸製油所の埠頭に停泊中の、大和丸という名の石油タンカーを監視していた。なぜなら、田宮石油が所有するこのタンカーが、テロリストの密入国や国外逃亡に関与しているという疑惑を持っていたからだ。
 とあるビルの屋上から双眼鏡で大和丸を見つめていた西岡が言った。
「鮫島は来るかな?」
 隣にしゃがんでタバコを吹かしていた里中が答えた。
「さあ? でも、張ってみる価値はあるさ」
「もし鮫島の乗船が確認できたらどうする?」
「出港してからSOP1に乗り込んでもらう。袋のネズミさ」
 この時、里中の携帯電話が鳴った。それは鮫島を追跡中の渡辺からだった。
 西岡は電話を切った里中に尋ねた。
「なんだい?」
 里中はにやりとして答えた。
「へへっ。鮫の奴、葉山にいるよ」


 里中からの連絡により、SOP本部で待機中だったSOP131(SOP第一セクション第三小隊第一班)が―すなわち、星を含む四人の隊員が、ナイトハウンドと呼ばれる戦術ヘリコプターで出動したころ、秋山は電話のベルに起こされた。
「もしもし……」
「渡辺だ。沢木と人美が拉致された」
「ええっ!」
 驚きとともにベットから落ちた秋山は、その衝撃で目を覚ました。
「だっ! 誰に」
「木下を殺った連中だ。今追跡してる」
「沢木さんは!? 二人は大丈夫なんですか!?」
「取り敢えず怪我はしてないはずだ」
「渡辺さんたちは? 大丈夫ですか?」
「進藤が撃たれて救急車を手配したが、心配ないと思う。SOPにも連絡した、すぐに応援が来てくれるだろう」
「分かりました。私は社に出社して対応に備えます」
「そうしてくれ」
「渡辺さん」
「何だ」
「沢木さんを、頼みます」
「……心配するな。必ず助け出す」
 秋山は電話を切ると慌てて着替え、髪を振り乱しながらマンションを飛び出し、愛車のインテグラで本社に向かった。


 沢木と人美を乗せた白いバンは、国道一三四号線を通ってJR逗子駅前を過ぎ、京浜急行の線路沿いの道を横浜市に向かって走っていた。
 時速三〇〇キロ強のスピードで飛行するナイトハウンドは、白いバンを追う渡辺からの連絡を受けながら飛び続け、午前一時五十五分、横浜横須賀道路と京浜急行線が交差する付近の道路で目標を捕捉した。
 鮫島が雇った男たちが口を動かした。
「畜生! ナイトハウンドだ」
「びくつくなデブ、こっちには人質がいるんだ」
「ボス、どうするんだ」
 助手席に座る鮫島は答えた。
「当初の脱出経路は使えない。ひとまずどこかに籠城するしかないな」
 ハンドルを握る太った男が言った。
「でもよボス、籠城なんかしたらSOPの思う壷だぜ。やつらは人質救出のエキスパートなんだ」
「俺はお前たちをCQBの得意な奴らと聞いて雇ったんだ」
 後ろの席で長髪の男の傷を手当していた眼鏡の男が尋ねた。
「それじゃ、ボスはSOPと初めから戦う気で」
「まあ、ある程度は予想してた。とにかく、今は戦うことだけを考えろ。脱出方法は俺が考える」
 長髪の男は銃を沢木たちに向けながら、不敵な笑みを浮かべて言った。
「へへっ、おもしろくなってきたぜ」
 バンの後ろ―荷台部分に座らされていた沢木と人美は、小さな声で話していた。
「沢木さん、私たちどうなるの?」
「大丈夫、私の仲間が動いてくれている、それにSOPも。きっと助かるさ」
「でも、一人は撃たれたわ。あの人は大丈夫かしら」
「撃たれたのは脚だ。早期に治療を受ければ心配ない」
「本当?」
「ああ。とにかく、チャンスを待つんだ、いいね」
「はい」
 沢木は思った。
 人美はなぜ力を使わないんだろう? 今以上に危機的状況に陥らないと力を発揮できないのか? あるいは…… まあいい―しかしまいったなぁ。あんなに銃を撃たれて、ピアノは大丈夫だろうか?
 人美も考えていた。
 力を使えば…… でも、コントロールできるかしら? 悪い人でも人間だわ、缶や花瓶のようにするわけにはいかない、そしたら私は人殺しだもの。どうしよう―でも、なんか沢木さんは落ち着いてるなぁ。怖くないのかなぁ?……
 二人がそんなことを思っている時、地図を見ていた鮫島は突然沢木に質問した。
「エアステーションの滑走距離を教えろ」
「なぜ?」
「貴様死にたいのかっ! 余計なことを言わずにさっさと答えろ!」
 鮫島が大声を出すと人美はビクっとした。それを感じ取った沢木は答えた。
「離陸が九六三メートル、着陸が八九〇メートルだ」
「航続飛行距離は!」
「三五五八キロ」
 二つの答えを聞いた鮫島はほくそ笑みながらつぶやいた。
「ふふっ。余裕だな」


 白いバンは時速一〇〇キロ近いスピードで、国道一六号線を南下し始めた。バンの約二〇メートル後方には渡辺の乗るスカイラインが、そして、上空にはナイトハウンドが、それぞれ白いバンを追跡していた。
 星が搭乗するナイトハウンドの正式名称は、相模MD/AH93Jといい、これは相模重工がアメリカのマクドネルダグラス社の技術協力を得て開発したSOP仕様のヘリコプターである。一九九四年から陸上自衛隊にも導入され始めたナイトハウンドの任務は、SOPの作戦行動時の情報収集、管制などであり、防弾加工された黒い機体に赤外線暗視装置、高感度指向性マイク、サーチライト、コンピューターなどの近代装備が施されている。最大速度三一二キロ、航続距離三六八キロのスペックを誇るナイトハウンドには、パイロットとオペレーターのほか、SOPの隊員四名(つまり一班)が搭乗できる。
 星は現場に車で急行中の里中に無線連絡した。
「こちら131。271聞こえますか」
 里中が応答した。
「こちら271」
「目標は国道一六号線で進路を南に変更、横須賀方面に向かっています」
「13はどうしてる」
「アラート1でスタンバイしてます」
「了解」
 里中は思った。
 横須賀方面だと。鮫の奴どこへ行く気だ?

 
続く…

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