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2012年9月23日日曜日

小説『エクストリームセンス』 No.2

小説『エクストリーム センス』は笹沼透(Satohru)の著作物であり、著作権法によって保護されています。無断で本小説の全部または一部を転載等利用した場合には、民事罰や刑事罰に問われる可能性があります。

 

プロローグ2

 

 日本という国家の新しい姿は、中国を襲った豪雨から始まった。その雨は洪水となって農村部に流れ込み、中国の食糧政策に深刻なダメージを与え、その影響は隣国の朝鮮民主主義人民共和国――北朝鮮にも伝わった。この当時、北朝鮮の食糧不足は限界に近い状態であり、その多くを中国からの食糧支援に頼っていたのだが、洪水は北朝鮮の食糧不足の限界を突破させた。
 時を同じくして、長らく健康不安がうわさされていた北朝鮮の国家元首が死を迎えると、無理に無理を重ねた不安定な国家は、まるで化学反応が安定を求めて激しく変化するような勢いでその姿を変えていった。自由を奪われ、食べることもままならず、生きるか死ぬかの瀬戸際の中で、抑圧された不満、怒り、自由への希望が、多くの国民を一つの方向にまとめ上げ、ついに、軍部の一部が国家指導部に反旗を翻すと、その流れは北朝鮮全土に広がった。そして、独裁者の死から3日目の朝には、北朝鮮全土が朝鮮解放軍と名乗る勢力によって制圧され、その主導部によって自国民と世界に向けてメッセージが発せられた。そのメッセージとは、民主的な国家を築き、核武装を放棄し、朝鮮半島を統一しようとするものだった。国際社会の多くがこのメッセージを歓迎する中、特に日韓米の三国は大きな反応を示し、アジアの平和と朝鮮半島統一へ共に歩むことを約束するとともに、直ちに北朝鮮への支援物資の供給を開始した。
 一方、中国にとっては、朝鮮半島が自由主義、資本主義に染まることは阻止したい出来事だった。中国政府は朝鮮解放軍を反乱軍と評し、中国人民解放軍を国境近くに集結させた。これに対して米軍は、空母を中核とする機動部隊を東シナ海に派遣し、朝鮮半島の軍事的緊張は一気に高まった。
 このような緊張状態は数年続いたが、朝鮮半島統一が現実味を帯びてくると、中国は軍を撤退させた。そして北朝鮮の崩壊から3年、南北朝鮮は統一されコリアン民国が誕生した。しかし、南北朝鮮の経済格差は大きく、旧北朝鮮国民の生活の質的向上や失業対策など、その費用は旧韓国GDPの5倍とも試算された。
 そのころ日本は長引く財政難と少子高齢化による労働人口の減少に苦しんでいた。このままでは国力は低下する一方であるとの危機感を抱いた超党派の議員や経済界が主導する形で、オリエント経済共同体構想が立案され、コリアン民国との具体的な協議が開始された。両国の思惑は基本的に一致し、協議開始から4年後、日本とコリアン民国によるOEC(Oriental Economic Community、オリエント経済共同体)が誕生し、GDP 7兆ドル、人口2億人のアジア有数の経済圏が誕生した。
 オリエント経済圏は、自由渡航協定と統一通貨アジアにより、人と金が自由に行き来できた。これにより旧北朝鮮の失業者は、日本に職を求めることや、日高(にちこう。高はコリアン民国)共同で進める朝鮮半島北部のインフラ整備事業で働くことを選択することができた。さらに、旧朝鮮人民軍の屈強な若者たちは、日本領海で行われた海底資源開発事業や、朝鮮半島北部に眠るレアメタル採掘事業の労働力となり、そこで得られた豊富な資源はオリエント経済圏を成長軌道に乗せる原動力となった。
 北朝鮮の崩壊から始まった極東3国の革命的かつ歴史的転換は、11年の歳月を経てOECの成功と安定という形でひとまず区切りがついた。しかし、軍事的には中国の脅威に常にさらされる立場となった日本とコリアンは、アメリカを加えた三国による日高米安全保障条約を締結し、オリエント連合軍(Orient Union Forces)、通称アウフを創設しこれに対抗した。
 どのようなことにでも負の面というものがあり、当然のごとくOECの成功にも様々な影が落とされた。旧北朝鮮の経済弱者の中には犯罪に走る者が多く出て、やがてマフィアを形成して組織犯罪集団が増加していった。また、日本のいわゆる嫌韓主義者は日本に移住してくるコリアン人を快く思わず、様々な問題を起こし続けている。一方、コリアン人にも日本と朝鮮半島の歴史的経過から反日の姿勢をとる者が多くいた。さらに、オリエント経済圏の拡大を望む急進派グループは、中国を除くアジア諸国をOECに取り込むことを推し進め、これが中国を刺激する要素の一つとなっていた。そして、このような様々な人々の思想や思惑は、時として犯罪やテロの震源となっていた。
 西暦2021年。それはこのような時代であった。

 

続く……

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