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2010年2月2日火曜日

小説『エクスプロラトリー ビヘイビア』(29)

 それから数十分の時がたち、渡辺が本部に帰って来た。彼は里中たちと別れた後、鮫島から受けた傷の手当てを病院で受け、それから本社に立ち寄り、テロ対策に関する指示や警察との協力体制を整えるための段取りをうっていたのだ。
 渡辺はリビングルームに入るなり、ウッドストックたち―進藤、森田、篠原―の顔を見て言った。
「どうしたんだ? 雁首そろえて」
 進藤が答えた。
「室長こそ、腕? どうしたんです?」
 渡辺は右腕に巻かれた包帯を押さえながら言った。
「ちょっとな、サメに噛まれたんだ」
「サメ?」と何人かが言ったが、彼は無視してウッドストックに尋ねた。
「それより、何でみんながここにいるんだ?」
 片山がここで起こったことについて説明しているころ、二階で沢木に見守られながら横になっていた秋山が目を覚ました。桑原は階下に降りていて、部屋にいるのは二人きりだった。彼女は目を開けてからしばらくはポカンと天井を見つめていたが、「秋山さん」という沢木の優しい呼び声に、やっと我を取り戻したようだった。
「ああ、沢木さん。どうして、私?」
「何も覚えてないの?」
「確かぁ、相馬さんから電話があって、それから…… 分からないわぁ」
「んん、そうか。具合はどう?」
「大丈夫です。ちょっと頭が痛いけど、それは寝てたせいで―ああ、そういえば夢を見てたわ」
「どんな?」
「沢木さんとずっと話しをしている夢。でも、変な夢。話してるのは私なのに私じゃないんです。誰かが勝手に私の口を動かして……」
「それはね…… それは人美さんだよ。君は見山人美の力によって、彼女のメッセンジャーを務めさせられたんだよ」
「メッセンジャー? 私を使って?」
「そう、彼女はもう私に構わないで、って警告してきたよ」
「警告?」
「うん、止めないと僕はひどいめに遭うそうだ」
 沢木はことの一部始終を秋山に話して聞かせた。
「沢木さん、私、怖いわ」
「大丈夫、何とかするよ。しなくちゃならないからね」
「でも、沢木さんの身に何か遭ったら…… 私……」
「心配しなくても平気だよ。僕らは彼女のためによかれと思ってやってるんだ。その気持ちはきっと彼女にも伝わるはずだ」
「でも、それは私たちのエゴかも知れないわ」
「そうかも知れない。でもね、僕は自分の信じる道を行くよ」
 秋山は沢木に優しい笑みを見せて言った。
「じゃあ、私も着いて行きます」
「ありがとう、君がいてくれることは何より心強いよ」
「そんな…… 私……」
 照れながらも秋山は起きあがろうとしたが、軽い頭痛に阻まれた。
「痛たたぁ」
 沢木は微笑みながら言った。
「もう少し休んでなさいよ。ご苦労だったね。夕飯、何でもご馳走してあげるから」
「本当ですか? それだったら、私もお寿司がいいなぁ」
 彼は鼻で笑って答えた。
「うん、いいよ。葉山で一番おいしい寿司屋に連れてってあげるよ」
「岡林君、行きたがるでしょうね」
「それを知ればね。でも、二人で食べに行こう」


 秋山が再び眠りについたころには渡辺もことの成り行きを聞き終わり、いくつかの答えを期待できない疑問を当事者にぶつけ、沢木はどうしたのかと思っていた。そこへ沢木がやって来た。
「ああ、渡辺さん、お帰りなさい。あれっ、腕どうしたんです?」
「ちょっとな」
「サメに噛まれたそうですよ」と岡林が口を挟んだ。
「サメねぇー、プロメテウスのほう、何か進展があったんですね」
「ああ、だがこっちのほうが先だ。終わりにするつもりなのか? どうなんだ?」
 沢木はかぶりを振り、全員の顔を見回しながら言った。
「一旦休みましょう。考えてみればこの二週間近く、ろくに休みもなくみんな働いて来たんだ。私もさすがに疲れてきましたよ。ゆっくり休んで、頭がリフレッシュされたところで今後のことをみんなで話し合いましょう」
 彼はカレンダーの前に歩み寄り、それを眺めながら言葉をつなげた。
「来週の月曜、午前十時に皆さん私のオフィスに集まってください。それまでの五日間はEB(エクスプロラトリー・ビヘイビア)計画を一時中断します」
 それだけあれば、何か思いつくだろう
 進藤が沢木に尋ねた。
「でも、その間に何か合ったらどうするんです?」
 沢木はあっけらかんとして答えた。
「大丈夫。何かあるとすれば私の身に起こるだろうから……」


 人美は夕日の色に染まる部屋の中で目を覚ました。起きあがり窓のほうへと進み、まばゆい夕日に目をくらませながら、小さな声でつぶやいた。
「サワキさん、って誰?」

『第二章 ブラッド・アンド・サンダー Blood And Thunder』へ続く…

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